所在地 熊本県宇城市
主要用途 専用住宅
構造 木造在来工法
階数 平屋建て

建築面積 111.79㎡
延床面積 109.30㎡
設計期間 2018.6~2019.1
工事期間 2019.5~ 2019.10

構造設計 甲斐構造設計事務所 
写真 八代写真事務所

受賞
第25回くまもとアートポリス
推進賞選賞

掲載
新建築住宅特集2020年12月号 
Archidaily / USA
Archello / Netherlands
architecturephoto / Japan

代々所有する大きな土地を引き継いだ夫婦のための家である。
敷地は並行する幹線道路を繋ぐ抜け道に沿った三角形の土地で、周辺には新旧入り混じった住宅地が広がる。定年退職を控えたなかで発生した熊本地震によって、かつて高齢の母が住んでいた母屋は解体を余儀なくされ、住み手を失った敷地は一部借家として利用されている納屋と庭木が残されたまま背の高いブロック塀に囲われていた。周辺の住宅も徐々に建て替わり住み手も変化していくなかで、この場所を住み継ぐことに決めた夫婦に寄り添い、この場所に建っていた母屋のようなおおらかで力強い建築を目指した。
夫婦が求めたプライバシーと採光の確保に対して敷地内に残された納屋や周辺に散見される越屋根を参照し、一部屋根を持ち上げ下屋とのあいだをハイサイドライトとすることで、周辺環境に左右されない安定した光と風を内部に届ける断面構成とした。
全体を貫く構造ルールとして2,730mm×2,730mmのグリッドを反復させた単純な架構を採用し、家の中心である持ち上げた屋根の下には居間と食堂、その周りに個室や水周りを配した平面計画の下敷きとした。各諸室は必要面積に応じて構造ルールからはみ出しながら可動間仕切りや梁上の開口によっての光と風を共有し、全体にやわらかな繋がりを生み出す。このとき、リジットな構造体を背景としたフレキシブルな導線に象徴的な断面が絡まりあい、多様なシークエンスを創造する。この空間構成は、家と塀が対となった周辺の住宅形式を踏襲しながらも、塀の上から覗く屋根とハイサイドライトによってその心理的距離を近づけるこの住宅の外部空間の関係性と相似する。
ゆるやかに変化していく地方の郊外住宅地において、その地域が紡いできたコンテクストを汲み取りながら継続していく建ち方を模索した住宅である。